対話の場としてワークショップをデザインします。ワールドカフェやマインドマップなど複数のツールを利用しながら参加者同士の対話と学びが促進するように意図して場を作ります。
dialogue」と名づけたワークショップのテーマは「目に見えない多様性」でした。
パッと見た感じは普通の人と変わりないのに、でも、目に見えないところに「多様性」を隠している人が存在します。
東京オリンピック・パラリンピックに向けて「多様性」(ダイバーシティ)という言葉をよく耳にするようになりましが、「多様性」のケースとして言及されるのは、お年寄り、妊婦さん、障がい者、外国人といった存在が大半です。
街のなかでも見つけやすく気づきやすい。こうした方々は目に見える存在です。したがって、トピックにもされやすい存在です。でも、多様性の持ち主は、このように「目に見える多様性」の持ち主ばかりとは限りません。
職場で隣の席の同僚が、電車で乗り合わせた人が、家族の友達が、たとえば、病気の経験者だとしたら、LGBTだとしたら、見た目はまるで同じでも、その目には見えない多様性に気づけるでしょうか。
AYA世代(Adolescent and Young Adult)のがんサバイバーの友人と接していると、一見して健常者と変わるところがないのに、実は目に見えなところに多様性を隠していることに気づかされます。そんな経験をベースにしてデザインした対話の場です。
演出としては 「目に見えない多様性」というテーマを、サンテグジュペリの著作「星の王子さま」の、有名な一節「ほんとうに大切なものは目には見えない」(Le plus important est invisible)にかけてみました。
「王子さま」にとって「目に見えないもの」は誰もが世界に一つだけ隠しもっている「世界に一つだけの花」です。お互いの「違い=花」を五感で感じあうマインドフルネスのワークを取りいれながら進めました。
「r-dialogue」のワークショップデザインは第一部と第二部の二部構成です。
第一部は「見えない多様性」をテーマにした対話のワークです。一口に「生きること」「働くこと」といっても、それに伴う個々人の物の見方や考え方は多種多様です。表にはなかなか浮かび上がってこない参加者それぞれの価値観や信念を可視化して、問い直し、新しい価値観や信念を創発する、「見えない多様性」による協創型のダイアローグを実施しました。
第二部はシンプルな懇親会です。カフェで食事をしながら自由に会話を楽しんでいただきました。第一部で発見した「多様性」にもっと深く関わることができたと思います。
「対話型鑑賞」のワークショップというものがあります。主に芸術教育の分野で行われているワークショップで、複数の参加者で同じ一つの芸術作品を鑑賞して、どんな経験をしたか、どんなことを考えたかを、対話するものです。
「Rs' Ink.」でも対話型鑑賞のワークショップを開催しています。対象の芸術作品ばかりでなく、文学作品にも広げ、読書会をワークショップに再デザインするスタイルで実施しています。
文学や芸術の本質は「存在の肯定」にあると考えています。いまここにいる人、いまここにある現象、それをそのまま、有るままに形にもたらすことが文学であり芸術の本質であると。
だからこそ、文学も芸術も多様性を肯定し許容する営みなのだと。
時代や国を超えて読まれてきた文学作品は、時代によって、読む人によって、多様な意味で読まれてきました。その点でも、多様性を受容するものだと考えています。
わかりやすく説明の多い娯楽作品ではどうしても受容や理解は一様で一面的なものになってしまいがちですが、文学や芸術の作品は理解や受容に多様性を受け止めることができます。
同じ小説を読んでも、同じ芸術作品を見ても、人によって、何が心に響き、何が魂に刺さるのかは千差万別で、その受け止め方にこそ、その人の人生が浮かび上がってくるというものでしょう。
子育てをしてきた人、大きな病を乗り越えてきた人、年老いた人、若い人、それぞれに唯一の経験を人生にしてきていて、そこで生まれた経験を基に作品を受容するものです。だから、文学や芸術に触れた経験を共有することは、その人の人生そのものを共有する営みとなりうると思います。
だから、病気と健康の「間」をつなぐ場として、文学や芸術の対話型鑑賞の場は価値があると考えています。
病気を経験したサバイバーと健康な人が、同じ一つの作品を読んで、その読書経験の違いを共有する。いつか、そのような場をデザインしてみたいと思っています。